ぺんぎん先輩の歌姫鑑賞

邦楽女性歌手のレビューを遺書・備忘録代わりに書いていきます。個人の感想です。あなたのオススメ教えて下さい。

■音楽雑記「SKE48が達成した全チームオリジナル公演という奇跡」

2023年7月15日、SKE48チームEのオリジナル公演「声出していこーぜ!」が初日を迎えた。これでSKE48チームSチームKⅡ・チームEの全チームでオール新曲の新公演をスタートさせたことになる。

 

それぞれの公演やCDの感想は別に書くとして、ここではこの”オリジナル公演”というものがどれほど凄いことなのかを書いておきたい。

 

まず、AKB48の結成が2005年12月8日、チームA 1st「PARTYが始まるよ」をスタートさせる。2期生を中心とした体育会系のイメージのチームK、3期生を中心とした妹系のチームBも結成され、チームK 2nd「青春ガールズ」(2006年7月8日)、チームB 3rd「パジャマドライブ」(2008年3月1日)というオリジナル公演が与えられる。いわゆるブレイク期にあたる2010年頃まで各チームはコンスタントにオリジナル公演を与えられることとなる。また、同時期に上述のSKE48が名古屋を拠点に結成し、チームS 2nd「手をつなぎながら」(2009年2月14日)とチームS 3rd「制服の芽」(2009年10月25日)までは順調にオリジナル公演を貰えることとなった。

そろそろSKE48 2期生を中心としたチームKⅡの番か…となった2010年頃、雲行きが怪しくなる。オリジナル公演の初日の日付こそアナウンスされるものの、幾度となく”制作上の都合による延期”が発表されたのだ。この頃までは、「オリジナル公演は与えられて当然であるもの」という認識がファンやメンバーの間であった。2011年6月、総選挙でのチームKⅡリーダー高柳明音は「私たちに(オリジナル)公演をやらせてください!」と秋元康に対して直訴した。

ようやく2011年10月1日にチームKⅡ3rd「ラムネの飲み方」公演という、48Gにおいても1年以上ぶりのオリジナル公演がスタートしたのだが、この頃には既にオリジナル公演を作るのは難しかったのかもしれない。シングルのリリースの増加(握手会や特典イベントの増加)、姉妹グループ・メンバーの増加、さらにSKE48などの姉妹グループは自身のシングルのみならずAKB48の握手会にも駆り出されるハードスケジュールであった。オリジナル公演を作ることにどのような苦労があるのかは想像の範疇でしかないが、新曲の発注、新衣装や新演出、メンバーのスケジュールを抑えてのレッスン、そしてその費用対効果…様々な理由で”オリジナル公演”はだんだんと優先されるべきことではなくなったのだろう。

各チームは「ウェイティング公演」という、過去の公演曲やシングル楽曲などをリミックスした公演を行うようになる。48グループの劇場曲はバラエティに富んだ楽曲も多かったため、これはこれで良い面もあったに違いない。しかし、あくまでオリジナル公演を”待つ”という名目だったはずだ。メンバーも自分のためのオリジナル公演(楽曲)が欲しい、そしてそれをファンも望んでいるのだ。

その願い虚しく、オリジナル公演を経験しないまま卒業するメンバーも珍しくなくなってくる。そして、だんだんとメンバーもファンも”オリジナル公演”にあまり期待してはいけない…そんな空気感が漂うようになってきていた。

 

 

そんな中、2013年8月23日にある事件が起きる。東京ドームで行われた「AKB48 2013年真夏のドームツアー~まだまだ、やらなきゃいけないことがある~」において、全チームのオリジナル新公演日程を発表したのだ。

(翌日の新聞広告)

 これには当時のファンも”絶対ムリだろ…”と思ったことだろう。今見ても噴飯ものの広告である。それでも公演名は公開されていたNMB48チームN「ここにだって天使はいる」公演くらいは完成させてほしいという思いがあっただろう。実際にこの予定から1年半の延期を経て、ようやくチームN 3rd「ここにだって天使はいる」公演は完成することとなる。

チームS以降の新公演は当然のように何もなかったこととなった。2016年2月10日にAKB48チームA 7th「M.T.に捧ぐ」公演がスタートするが、これが秋元康プロデュース最後の公演となった。(しかしCDの音源化は達成されないままとなった。佳曲揃いなだけに非常に残念である)

 

 

さて、ここで他グループにあった動きについても少し触れておきたい。NGT48では2017年7月2日からチームNIII 3rd「誇りの丘」公演をスタートさせる。これは”ぱちんこAKB48 チームサプライズ”用に書き下ろされた楽曲を使用した公演である。当時、パチンコ用の発表よりも前に公演がスタートしたため、なんとなく”オリジナル公演っぽさ”があったが、曲数などが通常の公演よりは物足りないものとなった。

HKT48では2019年4月、指原莉乃 卒業コンサートにおいて自身プロデュースの新公演「今、月は満ちる」を行うことを発表し、その表題曲を披露した。公演名や表題曲も完成していることからその実現を期待したファンも多かったであろうが…結論から言うと完全に頓挫してしまったようだ。

 

HKT48の新公演が実現しなかったその真相は分からないが、あれから48グループは色々あったのだ。全体的にグループの人気は低迷し、有名メンバーの相次ぐ卒業、総選挙はなくなり、NGT事件があり、コロナ禍があり、各グループの事務所もバラバラになったのだ。

 

 

 

前置きが長くなってしまったが、それだけ新公演・オリジナル公演を貰うことはほぼ”不可能”な現状であったのだ。それが2021年10月、突如「SKE48 新公演プロジェクト」が発表され、秋元康以外のプロデューサーを迎えることを示唆した。

まだまだファンは半信半疑であったが、実際に2022年5月チームS 7th「愛を君に、愛を僕に」公演が小室哲哉プロデュースでスタートすることとなる。

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この公演が、本当にもう素ん晴らしいものだったのだ。小室哲哉たちによる楽曲のクオリティもさることながら、牧野アンナ・CRE8BOYによる振り付け、それにぶつかっていくメンバーの熱量、歌唱、ダンス…

ドキュメンタリー映像でぶつかりあうメンバーたちに、かつてのチームSのメンバーたちの姿を重ね合わせたファンも多いことだろう。そして少しずつチームとして団結していく様に、”やっぱオリジナル公演って最高だよね!”という思いをファンにもたらすこととなる。

NIGHT TEMPOを迎えクラブミュージックの要素を入れた楽曲も光ったチームKⅡ「時間がない」公演、ヒャダインらを迎え他のアイドルグループのエッセンスを散りばめ、ファンとのコールアンドレスポンスが楽しいチームE「声出していこーぜ!」公演と、そのすべての新公演が一度も延期することなく完成したのである。これは10年前のあれやこれを見ていた者にとっては小さな”奇跡”なのである。

 

やはりオリジナル公演はいい。メンバーは自分のために与えられた楽曲や衣装に生き生きとしている。秋元康プロデュースを外れたことも非常に良い形で作用しているように思う。個人的にはシングル曲も秋元康プロデュースを外れてもいいのでは?と思える。

 

お待たせSet list 叶った夢 私たちに用意された素敵なメロディー

10年前、新聞に掲載された広告”全チーム新公演”はSKE48が静かに達成したのである。あの頃とグループの世間からの注目度は雲泥の差ではあるものの、SKE48は今でも劇場公演をとても大切に活動しているのである。それを少しでも知ってもらいたい。

■今日の1曲「closer」/ GARNET CROW

■「closer」/ GARNET CROW 

GARNET CROWの「closer」という曲について書きたくなったので、ここに記しておく。

 

GARNET CROWのラストアルバムとなった10thオリジナルアルバム「Terminus」。その後のベストアルバムに「バタフライ・ノット」という新曲も収録はしているが、オリジナルアルバムを軸に活動してきた彼らだけに、今作の最後を飾る「closer」こそがGARNET CROWの最後の曲なのではないかと個人的には考えている。

アルバム自体は「trade」などの秀逸な楽曲もありつつ、楽曲の質の差が激しい作品であった。長年活動してきただけあり、過去の楽曲と似た曲もどうしても増えてきていたように思う。この「closer」という楽曲もサラッと聴き流すとよくあるバラードのように感じるのだが・・・

 

注目すべきは詞の世界観だろうか。GARNET CROWの作詞を担ってきたAzuki七は、どちらかというと「生死」を区別しない死生観を持っていたように思う。

大切なモノ傍に在る方がいい
いつか 実体なくなる(ぼくらきえる)ならなおさら
与えられた期限(とき)を愛しいモノで埋め尽くすように
何処を切り取っても……

「君 連れ去るときの訪れを」(4thアルバム「I'm waiting 4 you」より)

 

お互いにいつか死別することを受け入れ、だからこそ今の幸せを大切にしていこう…ということを、そして魂はまたどこかで巡り会うだろう…ということを、GARNET CROWは繰り返し歌ってきたように思うのだ。それが今回の「closer」ではどうだろう。

分かち合うことですべてが光になるのなら この暗闇はなにかな

Vlook more lyrics @ http://www.vlooksongs.com/

 

消え行くものの彼方にすべてが出逢えるなら こんなに寂しいのはなぜかな

分かち合うことですべてが光になるのなら この暗闇はなにかな

 

今まで受け入れ、覚悟してきたはずの別れがこんなにも辛いものだったなんて。これまで力強い楽曲を歌ってきたGARNET CROWが、とても弱い、人間らしい部分を見せているのである。”涙流さぬよう遠回りする道”というフレーズは否が応でも「廻り道」の歌詞を思わせるが、その「廻り道」で感じられた前向きさが、この「closer」では消えてしまっている。だからこそ、夕暮れの木立に飛び去る影にまで期待を抱いてしまう。次の世界ではなく、この世界でまた君に会いたいと。

 

 

そして、もうひとつGARNET CROWが絶えず発信し続けたメッセージは、”愛は与えるもの”ということではないだろうか。

何かを求めるとか 形あるものじゃなく
ただ好きでいるそんな風にいれたらいいなって思う

「忘れ咲き」(4thアルバム「I'm waiting 4 you」より)

 

愛されることや、相手に届くかどうかではなく、ただ自分が想い続けることの尊さを様々な楽曲で歌ってきたのだ。ところが今回は冒頭から、”今をどんな風に生きてゆくとしても届かないけど” という、らしくない弱さを見せているのだ。

 

GARNET CROWが最後に見せたこの”人間らしい部分”と、バントの解散という事象が合わさり、この曲は過去の楽曲にも匹敵する名曲になったように思う。

■「BADモード」/ 宇多田ヒカル

■「BADモード」/ 宇多田ヒカル 評価:★★★★

 

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01. BAD モード
02. 君に夢中
03. One Last Kiss 
04. PINK BLOOD 
05. Time
06. 気分じゃないの (Not In The Mood)
07. 誰にも言わない
08. Find Love
09. Face My Fears (Japanese Version) / 宇多田ヒカル & Skrillex
10. Somewhere Near Marseilles ーマルセイユ辺りー
Bonus Tracks
11. Beautiful World (Da Capo Version)
12. キレイな人 (Find Love)
13. Face My Fears (English Version) 
14. Face My Fears (A. G. Cook Remix)

 

 

宇多田ヒカル8thアルバム。近年のアルバムはどの作品においても彼女の凄みを見せつけてきたが、今作でより一層凄まじいレベルの作品に仕上がっている。日本のトップアーティストだけあって様々なドラマや映画・ゲームのタイアップがついているが、そんなものお構いなしといったばかりにジャンル分け不能、新たな音楽性を次々と開拓している。歌謡曲的な要素はかなり減退しており、R&Bやハウス、エレクトロ、アンビエントな要素を随所に感じられる。

 A.G. Cook、Floating Points、小袋成彬との共作が多く、特にアレンジの面で驚くことが多かった。全米デビューアルバムの「Exodus」で本来やりたかったことを、より高いレベルで昇華させたようにも思える。そしてサウンド面だけ浮くことなく、存在感のある歌唱と調和し、お互いを惹きたてあっている。

 個人的には切れ味の鋭い強烈なメロディの楽曲も好きなので初めは少し残念だったのだが、アルバムトータルでの世界観が統一されており、じわじわと深みにハマっていくような良さがある。既発曲も多いが、他の楽曲と並ぶことでより魅力を増しているように思える。

 

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1曲目の「BADモード」がとにかくよかった。アルバムの中では比較的キャッチーな楽曲であるが、”BADモード”な世界において人を想う気持ちをストレートに綴った楽曲だ。アルバム全体的にダンサブルな要素はあるが、この楽曲が最も多幸感に溢れているだろう。「君に夢中」「One Last Kiss」といった中盤の配信楽曲も、この流れで聴くと改めて良さをしみじみと感じる。

8曲目の「Find Love」イントロがとにかく印象的であるが、淡々としたハウスポップな音と共に内省的な世界が広がっていくのにはグッと惹き込まれる。9曲目「Face My Fears」はクラシカルな入りから、次第に盛り上がりを見せていき、Perfumeをより狂わせたようなフューチャーベースな展開を見せる。かなりぶっ飛んでいる。

これでクライマックスかと思ったが、ラストは11分超えの超大作「Somewhere Near Marseilles ーマルセイユ辺りー」で、これが本当に凄かった。曲自体は大きな盛り上がりを見せることのない映画のエンドロールのような雰囲気なのだが、10分を超えても延々と聴いていられそうな中毒性は、まさに今作の象徴とも言えるような気がする。

ロンドンに居る君と、パリに居る私、マルセイユ辺りで会おうよという世界観にもほっこりとしてしまう。1曲めの「BADモード」もそうなのだが、このパンデミックによって制限された世界が無事に終わることへの願いのようなものが込められているような気がする。

惜しむらくは11曲目から14曲目までのボーナストラックは蛇足であるように感じた。

 

サブスク全盛の時代、イントロや曲尺が短くないと流行らないだの、サビから入らなきゃいけないといった下らないことが言われる中で、彼女こそ孤高に自信の創作性を貫き通す歌姫である。そんな人がセールス的にも日本でトップレベルにいるというのはなんとも誇らしいことだと思う。人によって好みは様々あれど、「格の違い」を見せつけた作品であった。

■「クチナシ」 / Cocco

■「クチナシ」 / Cocco 評価:★★★★

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1. White dress
2. 女一代宵の内
3. Supernova
4. 悲しい微熱
5. ひとひら
6. 花咲か仁慈
7. ダンシャリアン
8. アイドル
9. 青葉
10. 潮満ちぬ
11. Rockstar
12. ソリスト
13. 夜喪女
14. 想い事
15. 真白の帆

(16. L・O・V・E)

 

 

Cocco 11枚目のオリジナルアルバム。先行公開された「潮見ちぬ」がかつての名曲「流星群」や「Stardust」を超えるほどの突き抜けた爽快感を持った楽曲だっただけに相当期待してたのだが…過去のどのアルバムとも一線を画すようなカオスな作品に仕上がっていた。

 

核となるような楽曲と、インタルート的にやや短めの楽曲があるという作り自体は「エメラルド」「プランC」と似ているが、そのアルバムのリード楽曲がかなり多様性に富んでいる。「潮見ちぬ」こそかつての名曲を彷彿とさせたものの、昭和歌謡的な「女一代宵の内」はあまりに意外であった。ほかにはダークかつ妖艶な世界観をこれでもかと展開する「ひとひら」、洋楽ハードロック風の「Rockstar」などは新境地を開拓しつつCocco節は健在である。そして問題作は「青葉」であろう。あまりにストレートな合唱スタイルの卒業ソングに涙腺が緩んでしまう。Coccoの楽曲としてはあまりに意外ながらも、これまでに色々と乗り越えてきた彼女であるからこそ、こんなにも響くのだろう。

青葉の輝き胸に染む この想いを わたしのいない世界で いつか知るでしょう 』

子を想う母としての愛を、子どもが知るのはもう少し先の話なのかも知れない。

 

最初にも述べた「潮見ちぬ」についても少し語っておきたい。一晩中泣き腫らした夜を乗り越え、少しずつ立ち直ろうとする強い意志を丁寧に描いている。『覚えてて 愛ってもっと優しいんだって』というフレーズは多くの人を救う力を持っているだろう。Coccoらしくない「青葉」Coccoらしい「潮見ちぬ」という2曲こそ今作のハイライト。どちらの楽曲も歌詞に込めた熱量がとても大きく、素晴らしかった。

 

そのほかの楽曲はコロナ禍の2020年にYoutube上で「おうちデモ音源」として発表した楽曲が中心となっている。全体的にダークな楽曲が多く、時間も短いためそれぞれの印象が薄くなってしまったのが残念であった。

 

ただ、これだけのキャリアを築いてきながらも、新しいことに貪欲に挑戦する姿は本当に凄いと思うし、かつてはインターネット撲滅委員会を自称していた彼女が、Youtubeで料理動画をアップすることを誰が想像したであろうか。サムネイルをセクシーな画像にして何千万回と再生されているのもとても可笑しい。これからもマイペースに歌手活動を続けてもらいたい。

 

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■「Time flies」 / 乃木坂46

■「Time flies」 / 乃木坂46  

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乃木坂46 10周年記念ベストアルバム。デビューシングル「ぐるぐるカーテン」から、28thシングル「君に叱られた」までの表題曲と、アルバムのリード曲、配信限定シングル、生田絵梨花さんの卒業ソングなどが収録されている。

 

乃木坂46はシングル楽曲が活動の中心であったため、この1枚で乃木坂46の活動の大部分を網羅していると言ってもいいだろう。AKB48が三振覚悟で様々な曲調に挑戦する一方で、乃木坂46のシングル曲はわりと優等生的な常に70~80点くらいの安定したクオリティになっている。乃木坂のシングル曲は大きく分けて3つに分類されると思う。

 

君の名は希望」など清純な乃木坂のイメージを体現するミドルテンポの楽曲、「制服のマネキン」などのクールで大人っぽいダンスナンバー、「ガールズルール」などのアップテンポのアイドル的な楽曲、だいたいその3種類である。

逆に言うと「君の名は希望」・「制服のマネキン」・「ガールズ・ルール」でそれぞれのタイプの『完成形』とも言えるものを初期に提示してしまったため、その後の楽曲がこれらの過去の楽曲を超えられずあまりパッとしない、世間一般に浸透するほどの代表曲がないという問題に繋がっているように思う。アルバムのリード曲兼生田絵梨花さんの卒業曲の「最後のTight Hug」も、作曲は杉山勝彦さんという安定の”乃木坂らしい”楽曲であるが、既にやり尽くした感じがしてしまう。

 

あと、乃木坂46の楽曲は歌詞がとにかく辛気臭く説教臭いものが多い。「今、話したい誰かがいる」「いつかできるから今日できる」「僕は僕を好きになる」などはその最たる例だろう。1stアルバムのリード曲「僕がいる場所」も楽曲は良いのだが歌詞があまりに残念であった。

 

文句が多くなってしまったが、最初にも述べたように殆どの楽曲は優等生的な良曲が多い。上に挙げた3曲のほかにも「何度目の青空か」「サヨナラの意味」「きっかけ」などはかなり気に入っている。ただ、カップリングや他グループの楽曲と比べると、改めて守りに徹した楽曲が多いな~と感じるのである。

 

■ 今日の1曲「Sign」 / 鬼束ちひろ

■ 「Sign」 / 鬼束ちひろ

 

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「月光」「眩暈」といった名曲はもちろんのこと、個人的にこの「Sign」もかなり好きな楽曲である。オリジナルアルバム未収録、ドラマ等のタイアップもないためやや影は薄いが、カップリングだった「ダイニングチキン」含めて非常に良い楽曲である。

 

「男の子の視点から中学生の恋愛を書きたいと思った」というだけあり、彼女の楽曲の中ではかなりウブな世界観を感じられる。それでいて『今夜 君の部屋の窓に 星屑を降らせて音を立てるよ』なんていう素敵フレーズがサビで登場するのだから凄い。好きという感情をこんな詩的な表現できる中学生がいるなら見てみたいものだ。

 楽曲のテイストとしては「流星群」と同じベクトルのシンプルなバラード曲ではある。ただ、それ以上に楽しげに歌唱する姿も印象的な、多幸感溢れる楽曲である。

 鬼束ちひろは暗いイメージを持たれがちではあるが、この楽曲は暗闇の中に差し込む光のようである。癒やし、という言葉ではおこがましいくらい、浄化のパワーを持っているように思える。

 

 近年は声質・歌唱の変化、迷走ともとれるような曲調の変化などもあったが、まだまだその才能の片鱗を見せつける楽曲もたくさんある。ぜひ今後とも精力的に音楽活動は続けてもらいたい。

■「Kongtong Recordings」 / 安藤裕子

■「Kongtong Recordings」 / 安藤裕子 評価:★★★☆

 

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  1. All the little things
  2. ReadyReady
  3. UtU
  4. Babyface
  5. 恋を守って
  6. 森の子ら
  7. 少女小咄
  8. Toiki
  9. 僕を打つ雨
  10. teatime
  11. Goodbye Halo
  12. 衝撃(album ver.)

 

前作「Barometz」に引き続き、Shigekuniによるプロデュースによる今作。前作が個人的にはイマイチだったためあまり期待はしていなかったのだが…なかなか良い作品だった。

 

前作、というかavexを離れて以降はかなり自由に音楽をやっている印象があり、ストレートなポップスは影を潜め、幻想的な楽曲やオルタナ的な楽曲が多くなっていた。今作もそういった彼女の信念や音楽性への拘りを随所に感じられつつも、聴きやすいポップさも絶妙に混ざった仕上がりとなっているのが特徴だろう。

 

 それをまさに感じられるポップな序盤の3曲は嬉しい裏切りであった。ミュージカル風で楽しげな「All the little thing」、ノリの良さが光る「ReadyReday」「UtU」は初期の楽曲の残滓も感じたりする。

 中盤は静かでメロウな楽曲が続くため、ここが今作の評価の分かれどころかもしれない。もちろん悪くはないのだが「BabyFace」「恋を守って」「僕を打つ雨」といった6分近い大作バラードが続くのは、序盤・終盤の良さと比べると少しダレてしまったように思う。

その中でも「少女小咄」のしんみりとしたバラードはとても良かった。ただ、どうやら5年以上前の楽曲らしく、確かに変化球ばかりの今作で唯一ストレートな楽曲である。

 

インタルードを挟んでラストの2曲は『進撃の巨人』からインスパイアを受けた「Goodbye Halo」と、実際にED楽曲となった「衝動」である。聴いているだけでゾクゾクとしてくるような迫力・狂気、それを表現する歌唱は圧巻である。

  人気アニメのED曲となった瞬間にYoutubeも一気に300万再生以上である。良い楽曲は知られるキッカケさえあれば一気に伸びるんだなあと改めて感じさせられた。

 

混沌とした世の中に放った、ジャンルレスに安藤裕子の感性を炸裂させた仕上がりである。ただ、個人的にはどうしても彼女のストレートな楽曲に良さを感じているため、評価は抑えめにしておいた。かつてのストレートな音楽性、現在の作り込んだ作風、それらを抱え込んで昇華した安藤ワールドをぜひこれからも期待したい。

 

 

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聴いた瞬間、まさに「衝撃」。