ぺんぎん先輩の歌姫鑑賞

邦楽女性歌手のレビューを遺書・備忘録代わりに書いていきます。個人の感想です。あなたのオススメ教えて下さい。

■「BADモード」/ 宇多田ヒカル

■「BADモード」/ 宇多田ヒカル 評価:★★★★

 

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01. BAD モード
02. 君に夢中
03. One Last Kiss 
04. PINK BLOOD 
05. Time
06. 気分じゃないの (Not In The Mood)
07. 誰にも言わない
08. Find Love
09. Face My Fears (Japanese Version) / 宇多田ヒカル & Skrillex
10. Somewhere Near Marseilles ーマルセイユ辺りー
Bonus Tracks
11. Beautiful World (Da Capo Version)
12. キレイな人 (Find Love)
13. Face My Fears (English Version) 
14. Face My Fears (A. G. Cook Remix)

 

 

宇多田ヒカル8thアルバム。近年のアルバムはどの作品においても彼女の凄みを見せつけてきたが、今作でより一層凄まじいレベルの作品に仕上がっている。日本のトップアーティストだけあって様々なドラマや映画・ゲームのタイアップがついているが、そんなものお構いなしといったばかりにジャンル分け不能、新たな音楽性を次々と開拓している。歌謡曲的な要素はかなり減退しており、R&Bやハウス、エレクトロ、アンビエントな要素を随所に感じられる。

 A.G. Cook、Floating Points、小袋成彬との共作が多く、特にアレンジの面で驚くことが多かった。全米デビューアルバムの「Exodus」で本来やりたかったことを、より高いレベルで昇華させたようにも思える。そしてサウンド面だけ浮くことなく、存在感のある歌唱と調和し、お互いを惹きたてあっている。

 個人的には切れ味の鋭い強烈なメロディの楽曲も好きなので初めは少し残念だったのだが、アルバムトータルでの世界観が統一されており、じわじわと深みにハマっていくような良さがある。既発曲も多いが、他の楽曲と並ぶことでより魅力を増しているように思える。

 

youtu.be

 

1曲目の「BADモード」がとにかくよかった。アルバムの中では比較的キャッチーな楽曲であるが、”BADモード”な世界において人を想う気持ちをストレートに綴った楽曲だ。アルバム全体的にダンサブルな要素はあるが、この楽曲が最も多幸感に溢れているだろう。「君に夢中」「One Last Kiss」といった中盤の配信楽曲も、この流れで聴くと改めて良さをしみじみと感じる。

8曲目の「Find Love」イントロがとにかく印象的であるが、淡々としたハウスポップな音と共に内省的な世界が広がっていくのにはグッと惹き込まれる。9曲目「Face My Fears」はクラシカルな入りから、次第に盛り上がりを見せていき、Perfumeをより狂わせたようなフューチャーベースな展開を見せる。かなりぶっ飛んでいる。

これでクライマックスかと思ったが、ラストは11分超えの超大作「Somewhere Near Marseilles ーマルセイユ辺りー」で、これが本当に凄かった。曲自体は大きな盛り上がりを見せることのない映画のエンドロールのような雰囲気なのだが、10分を超えても延々と聴いていられそうな中毒性は、まさに今作の象徴とも言えるような気がする。

ロンドンに居る君と、パリに居る私、マルセイユ辺りで会おうよという世界観にもほっこりとしてしまう。1曲めの「BADモード」もそうなのだが、このパンデミックによって制限された世界が無事に終わることへの願いのようなものが込められているような気がする。

惜しむらくは11曲目から14曲目までのボーナストラックは蛇足であるように感じた。

 

サブスク全盛の時代、イントロや曲尺が短くないと流行らないだの、サビから入らなきゃいけないといった下らないことが言われる中で、彼女こそ孤高に自信の創作性を貫き通す歌姫である。そんな人がセールス的にも日本でトップレベルにいるというのはなんとも誇らしいことだと思う。人によって好みは様々あれど、「格の違い」を見せつけた作品であった。